5.殻は破れた

このブログは、とんでもない田舎に生を受けた人見知りの少年が、やがてコミュ力お化けになり年収3,000万超えを果たす迄の軌跡である。
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大学へ入学し青年となった。
志望校に進めずとも公立大学へ進めたことで、一旦は安堵していた青年。

入学式へ出向いた際、青年は愕然とした。
今まで勉強ばかりしてきた青年には、その光景は理解し難かった。

新入生控え室では、なんと酒盛りが行われていた。
言葉悪く言えば、とても民度が低かった。

周りにヤンチャな人間がいなかったと言えば確かにいたが、だがそれも進学校内でのこと。
偏差値の低いヤンチャはこういうものかと、青年は気が遠くなったのだ。

入学式を終えて青年が最初に思ったこと。

「編入しよう」

青年は特に仲間も作らず、またひたすら勉学に励んだ。
大講義室の最後列では、授業中にも関わらず酒盛りが行われている。

「早くこの環境を抜け出さねば」

青年は日々それだけを目指していた。

ある日、青年と同じ様に日々最前列で授業を受けている同級生と話す機会が訪れる。
話してみるとその同級生もまた、青年と同じ様な境遇だったのだ。

自然と仲良くなった二人は行動を共にする様になった。
ある日、同級生は言った。

「アルバイト始めない?」

青年は進学校だった為、アルバイトは禁止だった。
多少意見を言うことが出来る様になったとはいえ、まだ完全に人見知りが治った訳ではない。
しかし青年は、青森出身ということだけでスキーが出来ると思われ、大型スポーツ店で勤務することになってしまった。
(実際、滑ること自体は出来た)

初出勤時、店長から諸々の説明を受け、制服を着た状態で店内を一周した。
社員や地元の先輩アルバイターに一通り挨拶をし、事務所へ戻る。
当時の店長の判断は正しかった。
青年は、バックヤードでの梱包作業担当となった。

元来人見知りの青年は、黙々とこなすこの仕事が好きだった。
パートのマダム達からは男手ということでチヤホヤ(という名の仕事の押し付けだが本人は気付いていなかった)され、人生で初めてお金を稼ぐという行為に喜びを感じていた。

そんな中、”バックヤードの魔術師”と呼ばれる様になった青年に試練が訪れる。

人事異動だ。
コテコテの関西弁の新任店長がやってきた。

「若者は表や!」

その一言で”バックヤードの魔術師”は突然売り場担当となり、”売り場のチワワ”へと変貌する。
お客様来店時、売り場では山びこ方式に「いらっしゃいませ」と大声を出すルールとなっていた。
青年はそのルールによって過去のトラウマがフラッシュバックしてしまっていた。
(挨拶が出来ない:過去記事参照)

山びこ方式で迫り来る「いらっしゃいませ」の声に、青年の心臓は張り裂けそうになっていた。

「4番目がオレだ…3…2…1…あぁぁぁぁぁぁ!!」

青年は遂に言えなかった。
山びこは一瞬途切れ、青年を通り越してまた続いていった。

「やってしまった…」

パニックに近い状態に陥る青年。
そこに、新任店長が飛んできた。

「なんやお前、病気で声出んのけ?」

青年は何とか返答した。

「いえ…いや…」

関西弁が追い討ちを掛ける。

「ほな次ちゃんとやれよ」

そのまま新任店長は青年の前から動かなくなってしまった。
都合悪く、次のお客様がやってきた。
再度始まる山びこ。
青年を睨みつける店長。
フリーズする青年。

案の定、山びこはまたもや青年を通過していった。

「何で言わんのやーー!!帰れーーー!!」

響き渡る怒号。
瞬きも忘れ立ちすくむ青年。

青年は完全にまた塞ぎ込んでしまった。

再びバックヤードへと戻された青年。
売り場に出ることが怖くなり、出勤も裏口からする様になっていた。

やがて冬になり、ウインタースポーツシーズン到来。
青年の仕事は、梱包作業からスキー、スノーボードのセッティング、スケート靴のブレードの研磨など、完全に裏方に特化していた。

青年は「手先が器用で学習能力が高い」という属性から、一人で店の受注全てをこなすスーパー裏方へとなっていた。
そして遂に、人見知りの殻が完全に破れる出来事が起きる。

いつも通りスケート靴を研いでいた青年。
そこに、売り場担当のスタッフがやってきた。
どうやら急ぎらしい。

売り場に来て欲しいとのことで、青年は死ぬ程嫌だったが一人では無いという安心感から、売り場へ出向いた。
そこには1組の親子(母親と少女)が青年の登場を待っていた。

青年を見るなり「本当にありがとうございました」と頭を下げる母親。
何のことかさっぱり分からない青年。

状況が分からず立ち尽くしていると、売り場のスタッフから説明があった。

「青年ちゃんが研いだ靴が滑りやすくて、お嬢ちゃんが喜んでいるみたい。」

「え…?あ…良かったです…」と何とか返答する青年。
あの時の少女の笑顔は忘れられない。
青年は、人に感謝をされることがこんなに嬉しいことなのかと泣きそうになっていた。

スタッフの休憩回しが終わる頃、そのエピソードはスタッフ中に広まっていた。

「青年ちゃん凄いじゃん!!」

いつも寡黙で黙々と仕事をこなしていた青年は、突如スタッフに話しかけられる様になり、自然とコミュニケーションを取る様になっていった。

仕事にやりがいを感じ始めた青年は、とんでもない物量をハイクオリティでこなす様になる。
ウキウキで勤務していた青年を見て、あの店長が声を掛けてきた。

「お前そんだけやってたら誰よりも詳しいやろ?また表出るか?」

青年は突然の提案に躊躇したが、確かに言われてみれば商品に関して聞かれて困ることなど一つも無い。
青年は売り場担当へ再デビューを果たすこととなった。

元々オタク気質で、休憩中も手当たり次第にカタログを読破していた青年。
売り場の人の多さにやられそうにはなったものの、お客様からの質問には全て完璧に答え、また、お客様に合う物を自信を持って提案出来る様になっていった。

青年はバシバシ捌いていき、青年が担当したお客様が知人を引き連れてやってくるなど、気付けば「あの人から買えば大丈夫」という空気が出来上がり、短期間で”売り場のエース”と呼ばれる様になっていた。

すっかり自信がついた青年は性格も明るくなり、元々素材としては高身長イケメンの部類だったこともあり看板スタッフ化していった。

青年は非番の日も店に赴き売り場のディスプレイを調整するなど、職場にいることが楽しくて仕方無かった。
スタッフからもお客様からも信頼を得た青年はやがてアルバイトリーダーとなり、全国チェーン店にも関わらず個人販売実績1位を獲得、就活時期にはわざわざ本社の人事部長が北海道までスカウトへやってきた。
(社員の待遇を見て入社は丁重にお断りした)

性格が明るくなった青年は大学内でも次第に仲間が増え、編入しようという思いもどこかへ消え去り、華々しい大学生活を終えた。

ここまでが青年の核となる話である。
遂に社会人へとなった青年は、とんでもない経験を経つつ高収入経営者へとなっていく。
(社会人編へ続く)

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